【コラム】アメリカの寂れた「デニーズ」で食らう硬いステーキ、その趣について

世界は広い。人種も違えば言語も違う。そして「食」もまったく違う。海外に行った時、高級レストランや観光名所で食事するのもいいが、あえて市井の人々が行くような庶民的な店に入った方が、その国のことをより身近に感じることができたりするものだ。

先日初めてアメリカに行ったのだが、深夜に入ったファミレス「デニーズ」は、そういう意味でなかなかにキテいた。あの気怠い空気感。そして、そこで食べた硬～いステーキ。だがしかし、私（あひるねこ）はステーキを食らいながら、ある種の趣（おもむき）を感じていた。

・アメリカのデニーズに行った

デニーズは日本にもあるが、アメリカのデニーズは日本のそれとは少し様子が異なる。詳しくは編集長・GO羽鳥によるレポートを読んでいただきたいが、一言で表現するならばジャンク。いかにもアメリカという感じで、清々しいくらいにジャンクなのである。

さて、私が滞在したのは、ネバダ州にある「パーランプ」という町だ。と言ったところで、どれだけの人がパーランプを知っているかは疑問だが、とにかく何もない。気温が40℃以上あるという以外は、マジで特徴がないアメリカの田舎町である。この町で、私はデニーズに入った。

・深夜の寂れたデニーズ

用事を終えて、パーランプに戻ってきたのは深夜12時頃。遅い夕食をとろうとしても、ド田舎のパーランプで開いているのはマックかデニーズくらいだ。そこで渋々デニーズに入ったものの、店内はやはりガランガラン。非常に体格のよい女性店員（若い）に案内されテーブルに着く。客は私を含めて10人もいない。

メニューには当然のようにボリューミーな料理が並んでおり、見ているだけで胸焼けがしそうだ。あ～、うどん食いてぇな～！　だが、どういうわけか私は無性にステーキが食べたくなっていた。日本のとろける和牛ステーキではなく、靴底みたいに硬いステーキだ。なんだかアメリカっぽくていいじゃないか。

・硬いステーキを食らう

「ヘイ！　Tボーンステーキ、プリーズ！　シュリンプのセットで頼むよ!!」と例のガタイがいい女子に頼んだら「エビはもうないわ」という無慈悲な回答。さすがアメリカ、手強いぜ。その後、テーブルに届けられたステーキを見て衝撃を受ける。こ、これは……！

なんて味気ない皿なんだ……。横たわるステーキはサイズ自体は大きいものの、一切の感情が感じられない。ステーキに感情もクソもないのは承知だが、明らかに生気がないのである。さらに、付け合わせのブロッコリーとマッシュポテトから溢れる “傍観者感” もヤバい。無気力とは、まさにあのことだろう。

見た目からすでに硬さが伝わってくるステーキは、ナイフで切ってもどうしても硬い。実際に食べたどころでやっぱり硬い。トテモカタイ。うん、知ってた。別にマズくはないのだが、ここまで何も感じないステーキは初めてである。しかし、私はこの硬いステーキをガシガシと食べながら、奇妙な趣を感じ始めていたのだ。

・ザ・アメリカな空気

窓際には、何かのフライとパフェをガッツリ楽しむ巨漢のお年寄り夫婦（推定70代）。その隣には、腕にびっしりタトゥーが入っているものの、どこか垢抜けない青年とその彼女。UFOキャッチャー風のしょぼいゲームに勤（いそ）しんでいたデカいおっさんは、ちょうど店から出て行った。何とも言えない、気怠く憂鬱な空気が漂っている。

うわぁ、めっちゃアメリカって感じ。映画で見たことがあるような雰囲気だ。ニューヨークやラスベガスの華やかさにはない、アメリカの田舎のリアルな空気。そして、そこでゴムみたいなステーキを食らっている私。そうか、私は今アメリカにいるのだ。フォークで突き刺した肉を眺めながら、改めてそのことを実感したのだった。

実際、3日間の滞在で、あそこまでアメリカを強く感じた場所はデニーズ以外にない。この感覚を言葉にするのは難しいのだが、共感してくれる人はいないかと思い筆を執った次第である。ちなみに、ステーキは完食したものの、マッシュポテトはどうにも変な味がして残した。まずいマッシュポテトって、生まれて初めて食べたよ。